クローン病や潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患は、腸管粘膜に慢性の炎症や潰瘍を起こす免疫異常による全身疾患で、発熱、栄養障害、肝障害などの合併症を伴うことがある。

特に、クローン病は、遺伝的要因と細菌、ウイルスの感染、喫煙などの環境要因が複雑に関係していることが明らかになっているが、発症原因は不明であり根治療法がないため、国の指定難病とされている。

クローン病の遺伝的背景として、細胞内で物質分解に働く機構であるオートファジー関連因子の変異がわかっており、今回、オートファジーの機能低下がどのような物質の分解低下をおこして炎症性腸疾患の発症につながるのかが明らかになった。

腸管上皮細胞においてオートファジー機能が低下したショウジョウバエ個体を作製した。

この腸管炎症のモデル動物を使用し、腸管組織におけるオートファジーの機能不全が炎症をおこす機構、またそれと腸内細菌との関連を解析した。

その結果、腸管上皮細胞においてオートファジーの機能が低下していると、通常では悪影響を及ぼさない腸内常在菌の善玉菌に対して、不要な細胞内シグナルが活性化して、サイトカイン upd3(ほ乳類のホモログIL-6)の異常な分泌亢進が生じ、腸管幹細胞に機能することにより、幹細胞の異常分裂を惹起し、上皮細胞の結合に破綻が生じてくることが明らかになった。

さらに、腸内常在菌に対して上皮細胞自らが産生した活性酸素種に反応して、オートファジーが選択的に分解することのできるターゲットタンパク質 Ref(2)P(ほ乳類p62/SQSTM1 のホモログ)が腸管上皮細胞内で大きなシグナルプラットフォームを形成し、また、オートファジーはこれをターゲットとして分解により除去することで、常在菌に対する不要なシグナル活性化を抑制することが明らかになった。

すなわち、オートファジー不全腸管では、病原性細菌に対する損傷応答が腸内常在菌に対しても発生するため、損傷応答が慢性的に起き続けることが明らかになった。

また、腸管上皮でオートファジーの機能が不全だと、加齢と共に生じる腸管バリア機能の低下がより若齢から生じ、全身の炎症と寿命の短縮が起きることも明らかになった。

今後、ヒトの炎症性腸疾患であるクローン病の発症原因の解明に繋がる重要な知見となることが期待される。

本研究成果は、Developmental Cell誌にオンライン掲載された。