食道癌の約半数が中部から下部食道に多く発生します。食道の粘膜から発生した癌は、進行すると深部から外膜へと広がり、気管や大動脈などの周囲の臓器にまで直接浸潤していきます。また、食道周囲リンパ管や血管から肺、肝臓などの他臓器へ遠隔転移します。
食道癌は90%以上が扁平上皮癌ですが、近年は胃酸の逆流により本来の食道下部粘膜が侵されて胃粘膜同様の腺上皮に置き換わる腺癌が増加し、これをバレット食道癌と呼びます。
食道癌の年間発生数は10万人あたり17.9人です。
男性では1年間に10万人あたり31.0人、女性では5.6人と、男性に多い傾向がみられます。
年齢別でみると、50歳代から増加を始め、70歳代でピークを迎えます。主な発生要因は喫煙と飲酒です。また、喫煙と飲酒ともに習慣がある人は危険性がかなり高まります。
食道癌の一つの特徴として、重複癌の割合が約20%もあり、同時発生、また別の時期に発生することもあります。重複癌としては、胃癌、頭頸部癌などが多く認められます。
(早期食道癌)
(進行性中部食道癌)
(進行性頸部食道癌)
初期は症状が出にくいですが、進行すると飲食時の胸の違和感、嚥下困難(つかえる感じ)、体重減少、咳、声のかすれなどの症状が出ます。
周囲の肺・背骨・大動脈などに浸潤すると胸の奥や背中に痛みを感じるようになります。
気管や気管支などに浸潤すると咳が出ることがあり、また声帯を調節している神経へ及ぶと声がかすれることがあります。
早期癌の場合は内視鏡的切除術(ESD)が行われます。進行癌では食道全摘術が標準的に行われ、消失した食道再建は胃管による場合が多いです。
周囲への浸潤や遠隔転移がある場合は抗癌剤が選択されますが、食道癌の90%以上を占める扁平上皮癌には放射線治療も行われます。
<監修責任者>
医潤会内視鏡クリニック 理事長 中西弘幸