2021.01.07
膵臓癌における新たなバイオマーカー
膵癌は、背部痛などの症状による診断時には進行癌の状態で発見されることが多く、外科的切除の適応とならず、抗癌剤治療のみの対象となり、5年生存率は8.5%と極めて予後不良であるが、膵癌による死亡者数は年々増加の一途を辿っている。
内視鏡検査であるERCPや 画像診断であるCT検査に加え、CA19-9などの腫瘍マーカーがあるが、膵癌を早期の段階で拾い上げるのは困難であり、早期発見・早期治療を可能とする新しい膵癌の診断マーカーの開発が強く求められている。
近年、癌組織から血液中に遊離する核酸(DNAやRNA)を検出して癌の診断マーカーとして応用する、いわゆるリキッドバイオプシーの研究の進歩は目覚ましいものがあり、膵癌においても、環状RNAと呼ばれる特殊な形態を持つRNAが異常発現することが明らかになりつつある。
さらに環状RNAはその構造上の特徴から、通常の線形RNAより血液中で安定して存在することが知られており、バイオマーカーとしての応用が期待されている。
今回、環状RNAに特異的なRNAシークエンス解析を行い、既知の環状RNAだけでなく既存のデータベースにない新規環状RNAも網羅的に探索し、新しい膵癌のバイオマーカーとしての可能性についての検討がなされた。
正常な膵組織および膵癌組織由来のRNAをエクソヌクレアーゼで処理したのち、RNAシークエンス解析によって環状RNAを網羅的に探索し、膵癌由来のRNAから54,000種類、正常由来のRNAからは14,000種類の環状RNAを同定した。
これにより、約4万種類が既存のデータベースにない新規環状RNAであることが明らかとなった。
さらに、膵癌組織と正常膵組織における環状RNAの発現量を比較し、12番染色体から転写されている新規環状RNAが膵癌で高発現していることが発見され、その全長配列が同定された。
次に、膵癌組織43例、正常膵組織10例に対してこの新規環状RNAと特異的に結合するプローブを用いてRNA in situ ハイブリダイゼーションを行い、膵癌組織で新規環状RNAが有意に高発現していることを確認すると、癌の進行度に対応して新規環状RNAが高発現する傾向が認められた。
非侵襲的に採取可能な血液から環状RNAを検出できる前増幅とドロップレットデジタルPCR法を組み合わせると、わずか200マイクロリットルの血液から微量の新規環状RNAを検出できることが明らかになり、膵癌患者20人と健常者20人の血清を用いて新規環状RNAを測定すると、健常者と比較して膵癌患者で特異的に新規環状RNAが検出された。
さらに、新規環状RNAは膵癌の前癌病態として知られる膵管内乳頭粘液性腫瘍(Intraductal Papillary Mucinous Neoplasm:IPMN、を持つ患者10人中6人の血清からも検出され、膵癌の早期診断だけでなく、前癌病態の発見にも寄与できる可能性が示唆された。
今後は、バイオマーカーとしての有効性をより多くのデータ蓄積を行うことにより、膵癌における新たなバイオマーカーとしての臨床応用が期待される。