大腸内視鏡検査の普及により、大腸癌が早期の段階で発見される症例が増加している。

また、内視鏡的切除に使用するデバイスの進歩と内視鏡的粘膜下層剝離術(endoscopic submucosal dissection;ESD)の普及により、早期大腸癌においても大きさにかかわらず完全一括切除することが可能となってきた。

一般的に、粘膜内にとどまる早期大腸癌(Tis癌)は転移することはなく局所切除のみで根治が可能であるが、T1癌は約10%にリンパ節転移を認めるため、内視鏡的切除後の病理組織学的検索で根治度判定を行い、追加腸切除の適応を検討する必要がある。

ただ、追加切除に対しては、一律に適応基準を当てはめるのはさまざまな問題がある。

完全一括摘除可能な大腸T1b癌に対しては、切除生検としての内視鏡治療を先行させてリンパ節転移リスクを正確に評価し、その後の追加治療のことを考えるというストラテジーに向かう可能性は高い。

また、超高齢社会を迎えた現在、患者の年齢・基礎疾患・身体的活動度・患者の意志・人工肛門になるか否かなどの要素も十分に考慮したうえで外科手術を行うかどうかを判断すべきである。

特に下部直腸の病変に対するMiles手術の術後QOLには性機能や排便排尿障害などの問題点もあり、これらを十分に説明し、手術を受けるか否かは、最終的に患者自身が決定することである。

完全一括摘除可能な大腸T1b癌に対して切除生検としての内視鏡治療は、現在まだ臨床研究段階であるが、これを一般化するためには、適応判断における必要な正確な術前診断学・完全一括切除を完遂するための内視鏡的切除技術・切除標本の正し理組織学的診断の3要素が揃うなど、解決しなくてはならない課題が山積している。