炎症性腸疾患とは免疫機構の異常により免疫細胞が腸管細胞を攻撃することにより腸管に炎症を引き起こす疾患であり、主に潰瘍性大腸炎とクローン病の2種類がほとんどを占める。

症状は、慢性的な下痢や血便、腹痛などを伴い、腸管の炎症再生性変化に伴う腸管粘膜の脱落により、粘液便や粘血便がみられることが特徴的である。

治療は5-ASA製剤やステロイドなどが中心となるが、根本的な治療法は明らかでない。

一方、膵臓は、消化酵素である膵液を十二指腸内へ分泌し、腸管での消化を助ける外分泌機能を持つ臓器である。

この外分泌機能を担う膵臓の腺房細胞の分泌顆粒には、GP2が多く含まれている。GP2はアミラーゼなどの消化酵素が含まれる顆粒の顆粒膜タンパク質のうち、15-30%を占め、大量に分泌され腸管腔に広く分布している。

このGP2に反応をする自己抗体が炎症性腸疾患の症例では多く検出されることが報告されていたが、膵臓から分泌されるGP2の役割はほとんど明らかではなかった。

また、腸管の機能低下が多臓器不全を引き起こすメカニズムには、炎症性腸疾患などの消化管疾患や免疫能の低下、全身的な栄養不全、ストレス、細菌の異常増殖により、腸内細菌が腸管内から粘膜組織や腸管のリンパ節、他の臓器へと移行・感染するバクテリアルトランスロケーションと呼ばれる現象が関与しているが、バクテリアルトランスロケーションが起こる明確な原因も明らかではなく、今回、炎症性腸疾患における関与についての報告がなされた。

まず、GP2は、腸管の細胞ではなく、腸管の内容物(管腔)に強く検出されることを発見し、GP2は腸管の十二指腸から大腸にかけて管腔内に分布しており、糞便中でも多く検出された。

また、GP2が腸内細菌と結合し凝集している様子が示唆された。

GP2は細菌の線毛と呼ばれる上皮細胞への接着に必要な部位に結合しており、全身もしくは膵臓特異的にGP2を欠損させたマウスでは、バクテリアルトランスロケーションが起こりやすく、腸炎が重症化することが明らかとなった。

さらに、GP2は恒常的に膵臓から分泌されている一方で、腸管から発せられる炎症シグナルであるサイトカインを腺房細胞が感知することにより、より多くのGP2が生成され、膵液中のGP2レベルが上昇するフィードバック機構が存在することが示唆された。

膵臓と腸が連携するメカニズムの更なる解析と活用法の開発は、バクテリアルトランスロケーションによって悪化する炎症性腸疾患をはじめ、多くの疾患に対する予防法や治療法への応用につながると期待される。

本研究成果は、Nature Communicationsに掲載された。