ヘリコバクター・ピロリ菌に加え、胃癌発生原因の可能性菌として新たなヘリコバクター属菌が同定された。

国立感染症研究所細菌第二主任研究官の林原絵美子氏らの研究グループは、胃MALTリンパ腫を含む複数の胃疾患患者からヘリコバクター・スイス(Helicobacter suis)を分離培養することに成功した。

さらに、ヒト胃由来ヘリコバクター・スイスを用いたマウス感染実験により、胃での病態発症を確認した。

ヘリコバクター・ピロリ陰性でも胃疾患を発症する患者は多い。原因としてヘリコバクター・ピロリ以外のヘリコバクター属菌であるハイルマニイ菌の関与が指摘され、その多くは豚を自然宿主とするヘリコバクター・スイスであることが分かってきた。

今回、3人の患者から分離されたヘリコバクター・スイス株の薬剤感受性を測定したところ、いずれもクラリスロマイシン、レボフロキサシン、オキサシリンへの耐性はなかった。全患者でアモキシシリン、クラリスロマイシン、ボノプラザンによる3剤併用療法が成功し、胃MALTリンパ腫を含む2例では内視鏡的・病理組織学的所見でも大幅な改善を確認できた。

さらに、胃疾患患者から分離したヘリコバクター・スイスをマウスに感染させると、胃粘膜へのリンパ球浸開、化生性変化を認めた。また、感染マウスの胃からヘリコバクター・スイスを分離し、ゲノム解析したところ、胃疾患患者由来のものと同じと判明した。これらの結果から、ヘリコバクタースイスが胃の傷害を引き起こす病原細菌であることが確認された。

胃疾患患者由来のヘリコバクター・スイスのゲノムは豚由来株と類似し、人獣共通感染症の起因菌である可能性が示唆された。今回の研究により、菌特異的な蛋白質を標的とした診断法や治療法の開発が進む可能性があると考えられる。

本研究成果は、Proc Natl Acad Sci USA誌オンライン版に掲載された。