内視鏡検査の普及により、大腸癌は早期発見・早期治療が可能となっている。

しかし、内視鏡治療適応外の進行性大腸癌で見つかるケースもいまだ多く存在し、外科的手術適応外の肝転移などの難治性転移性大腸癌で発見されるも多い。

この転移性大腸癌に対しては、近年、分子標的薬が使用される場合が多いが治療効果は低い。

この大腸癌はRAS遺伝子異常を伴っていることが多く認められる。

RAS は10以上の下流のシグナルを制御することで膨大なネットワークを形成しており、特にPI3K/AKT と MAPK/ERKシグナルは細胞増殖、細胞生存に関する遺伝子の転写を誘導する重要なシグナル伝達経路となっている。

そのため、 K-RAS のみを阻害しても増殖抑制は一過性であり、RAS ネットワークにより代償性シグナル が活性化され、K-RAS 変異癌を治療することは困難である。K-RAS 及び K-RAS ネットワークを多角的に抑制する主要な miRNA が miR-143 であることが明らかにされた。

miR-143 は染色体 5q32-33 に局在し、その転写産物は miR-145 と共発現し、多くの癌腫において発現が低下している癌抑制 miRNA である。

このmiR-143 は K-RAS のみならずその下流の増殖を誘導するシグナル系(effector signal)PI3K/AKT と MAPK/ERK シグナルの AKT 及び ERK を標的にし、相乗的にこれらのシグナルを抑制することも明らかになった。

100 以上のmiR-143誘導体から最もヌクレアーゼ耐性で、抗癌活性はヒト大腸癌細胞株 DLD-1 において IC50: 1.32nM であり、Ambion 社のmiR-143 の数十倍であるmiR-143#12 が開発された。

このmiR-143#12 を用いることにより、 KRAS/ADP から活性型 KRAS/ATP に変換する SOS1 も標的にし、さらに K-RAS effector signal の標的遺伝子が K-RAS 自身で在り、K-RAS 正の制御回路の存在が明らかになった。

様々なヒト癌細胞を皮下に移植したヌードマウスに miR-143#12 を全身投与し、その結果、全例において、低用量で顕著な腫瘍増殖抑制が見られた。

投与されたマウス腫瘍サンプルにおける蛋白発現では、KRAS 及び K-RAS エフェクターシグナル分子、AKT、ERK の発現が有意に低下しており、in vitro 実験での miR-143#12 の効果は動物実験でも実証された。

これらにより、今後、RAS 変異大腸癌に対する画期的な治療法となることが期待できる。

本研究成果は、Cancers 誌のオンライン版で発表された。