上部内視鏡検査の普及により、食道癌が早期に発見され、ESDなどの非侵襲的内視鏡治療による完治症例が増加している。

しかし、食道癌は進行が速く、発見時には外科的手術の対象となり、所属リンパ節や遠隔転移をきたしており、抗癌剤治療や放射線治療のみの限定的治療となる場合も多く、また、臨床現場では再発の早期発見も重要である。

腫瘍マーカーによる検査では、早期の段階で発見することは難しく、早期食道癌を発見するバイオマーカーの研究が進んでいる。

血液中には体内の細胞から遊離したDNA断片が存在するが、癌患者では癌細胞から遊離したDNAも血液中を循環しており、腫瘍細胞由来血中循環遊離DNA (circulating tumor DNA: ctDNA)と呼ばれている。

ctDNAは癌細胞に由来するため個々の癌症例に生じている特有の変異を共有しており、個別化血液バイオマーカーとして近年注目されている。

ctDNA検査法は次世代シークエンサー(Next generation sequencer: NGS)を用いた方法とデジタルPCRを用いた方法に大きく分けられ、少数の変異のみを解析する方法であるデジタルPCRは、対象とする変異に対してはNGS解析に比較して10~100倍の検出感度を有するほか、検査時間が短く安価なためくり返し検査に適した手法である。

今回、再発リスクを有する食道癌治療後症例におけるデジタルPCRによるctDNA検査の有用性について報告がなされた。

ステージI~IVの食道癌症例を対象とし、食道癌で高頻度に異常が見られる31遺伝子の変異スクリーニングを行い、患者特有の変異を用いてデジタルPCRにより診療経過中のctDNAの推移を追跡し、CTスキャンや腫瘍マーカーとの比較検討を行った。

治療によりctDNA陰性化が認められた症例では、高度進行癌であっても長期生存が得られ、また、再発が認められた症例ではCTスキャンより約5か月早くctDNAの上昇が確認された。さらに、手術、放射線治療、化学療法の治療効果に合わせてctDNAの増減が見られ、治療終了後無再発の患者ではctDNAの陰性状態が維持されていた。

ctDNA検査は既存の血液腫瘍マーカーに比べてより多くの症例で臨床所見の推移に合致していた。

ctDNAと食道癌症例の予後に関する検討では、治療開始後にctDNAが陰性化する患者は治療後もctDNA陽性を維持する患者に比べ有意に予後が良いことが示唆された。これにより、治療経過に合わせ複数の採血ポイントでctDNAの変動を追跡することが再発を早期に捉えることに重要と考えられる。

ctDNA検査は再発や治療効果、無再発状態を正確に判定可能であり、今後は、CTなど侵襲的検査を減少させ、ctDNA検査が食道癌症例の必須臨床検査になると考えられる。

本研究成果は、米国消化器病学会雑誌「Gastroenterology」の電子版に公開された。