胃癌は、胃壁内部粘膜の腺細胞が癌化したもので、進行すると、粘膜下層、固有筋層、漿膜へ深く進み、漿膜外部の大腸や膵臓にも浸潤し、血行性に肝臓などへ遠隔転移する。

年間発生数は約135,000人で、日本をはじめ東アジアで最も頻度の高い悪性腫瘍である。

胃癌のほとんどは、幼少時のピロリ菌感染により発生するが、ヒト側の遺伝的素因やそれらと環境因子との関わりについて、その全体像は明らかになっていない。

今回、癌ゲノムシーケンスにより、胃癌のドライバーとなる体細胞ゲノム変異についての全体像が明らかにされた。

319人のアジア人、212人の非アジア人を併せた531症例の胃癌患者を対象とした大規模なゲノム解析を行い、体細胞ゲノム変異のパターン、胚細胞バリアント、生活習慣およびそれらの関連性について調査し、アルコールによって引き起こされるとされる特徴的なゲノム変異のパターンが見られる症例がアジア人に特異的に認められ、日本人の胃癌に限った解析では、6.6%に認められた。

それらの胃癌症例は、東アジア人に特有のALDH2遺伝子多型を持ち、飲酒および喫煙の両者が重なった時に相乗的に変異の数が増えることを特徴としていた。

また、癌関連遺伝子のなかでE-カドへリン遺伝子上のバリアント密度が最も高いことも明らかになった。

これらのレアバリアントを保有する患者の胃癌は大部分がびまん型胃がんであり、びまん型胃がん症例のうち13.3%を占めていた。

東アジア地域特有のALDH2遺伝子多型と飲酒・喫煙習慣との組み合わせ、およびE-カドへリンの病的胚細胞バリアントの集合が、日本における胃癌の原因の一部として強く示唆される。特にびまん型胃がん症例の21.0%は上記のどちらかの寄与があるという結果であった。

胃癌の発症リスクとなる生活習慣や胚細胞バリアントが明らかになったことで、より効果的な予防介入が期待される。

本研究成果は米科学誌『Science Advances』に公開された。