プロトンポンプ阻害薬(PPI)は広く普及している酸分泌抑制薬である。

しかし、食生活の欧米化やそれに伴う肥満による食道裂孔ヘルニアによる胃食道逆流症(GERD)、また高齢者の腰痛などに投与される非ステロイド性抗炎症剤によって引き起こされるNSAID潰瘍などに対してPPIが投与される場合は長期に及ぶことが多く、さまざまな疾患や病態との関連性が報告されている。

PPIの長期服用による副作用の多くは、PPIによる直接の障害のみならず、胃酸分泌抑制による腸内細菌叢の変化、吸収障害、ガストリン分泌亢進、代謝経路の競合による他剤への影響が関与して惹起される。

心血管疾患や呼吸器疾患に加え、多彩な消化管疾患への副作用に対しては十分な注意が必要となる。

特に、消化管疾患においては、細菌性腸管感染症、吸収障害、胃カルチノイド腫瘍や胃・大腸癌などの発生との関連性が示唆されている。

細菌性腸管感染症の発生機序としては、口腔内から侵入下細菌は胃内部の胃酸により増殖が阻止されるが、PPIによる胃酸低下により細菌の腸管内への流入し、腸管感染症を引き起こす。

吸収障害においては、特にVitB12や鉄の吸収には胃酸が必要であるためPPI長期投与による胃酸低下により吸収障害が起こり、貧血が発生する。

また、PPIの長期投与は高ガストリン血症を引き起こし、それにより胃癌・大腸癌の発生促進の危険性が報告されており、また胃粘膜のECL細胞の過形成や胃カルチノイド腫瘍などの腫瘍催起性の問題があるが、現在のところカルチノイド腫瘍発生の報告は数例であり、大きなコホート研究としてはカルチノイドの発生は認めていない。

このようにPPI投与による副作用については、今後の長期経過観察が必要であるが、上記のようなGERDや潰瘍などによる上腹部痛軽減のための投与と副作用とのプライオリティーを考慮しながら慎重な判断が求められる。