2021.02.09
大腸カメラ検査時に発見される転移性難治性大腸癌における線維芽細胞発現メフリンによる新規治療戦略
近年増加の一途をたどる大腸癌は、大腸内視鏡検査の普及により、早期大腸癌で発見され、またESDなどの内視鏡治療の進歩により内視鏡切除が可能となっている。
しかし、進行性大腸癌で発見されるケースも依然として多く、遠隔転移と伴う場合は抗がん剤治療などが施行されるが完治に至らない。
そのため、大腸癌をはじめとして癌の発生・進展におけるメカニズムの解析は急務となっている。
大腸癌などの癌組織周囲には、癌細胞以外の多くの間質細胞が存在する。
これらの間質細胞のうち「線維芽細胞」と呼ばれる細長い突起を持った細胞の増生が大腸癌の進展に著しい影響を与えていることがわかっている。
大腸癌組織の中に存在する線維芽細胞は、癌関連線維芽細胞(Cancer-associated fibroblasts;以下CAF)と呼ばれ、癌を促進する「癌促進性線維芽細胞」と癌を抑制する「癌抑制性線維芽細胞」の2種類があること示唆されている。
また、大腸を含む多くの正常臓器において、間質細胞や上皮細胞が分泌する骨形成因子(BMP, bone morphogenetic protein)は、生理的状態の維持に重要であり、正常大腸においては、間質細胞が繊細に調節するBMPの濃度勾配により、大腸上皮細胞の増殖・分化が正常に保たれている。
今回、大腸癌組織中の異なるCAFに発現するメフリン(ISLR)とグレムリン1という分子が、大腸癌のBMPのシグナルを調節することにより、大腸癌進展の抑制および促進することが明らかにされた。
病理組織検体を用いた遺伝子発現解析により、メフリンを多く発現する大腸癌症例は良好な予後を示し、グレムリン1を多く発現する大腸癌症例は悪い予後を示すことが明らかになった。
また、CAFの分化に重要な役割を果たすTGF-βシグナル活性の違いが、大腸癌周囲でのメフリン陽性CAFとグレムリン1陽性CAFの分化を決定していることも明らかにされた。
グレムリン1の機能を抑制またはメフリンを増加することにより、BMPシグナルが増強され、大腸癌の増殖が抑制される抑えられることわかり、CAFの機能的な多様性の本態はBMP発現量の違いによるものである可能性が示唆された。
また、特殊なウイルスベクターにより、正常マウスの肝臓細胞にメフリンを分泌させ、大腸癌肝転移の進行が抑制されることも発見され、肝転移を起こしやすい進行性大腸癌の治療において、肝臓細胞に特異性の高いウイルスベクターを使用することにより大腸癌の肝転移進行が抑制できる可能性があることが期待される。
本研究成果は、米国消化器病学会「Gastroenterology」のオンライン版で掲載された。