2021.02.08
稀少癌である神経内分泌癌研究のためのオルガノイド培養技術
胃癌・大腸癌などの消化器系の悪性腫瘍の多くは腺癌であり、食道癌では扁平上皮癌が多い。
しかし、稀に、上皮構造がなく神経や内分泌細胞の特徴的なタンパク質を発現する神経内分泌癌がある。
内視鏡検査時において、粘膜面が正常な隆起性病変として捉えられ、EUS-FNAなどの検査において神経内分泌腫瘍であると診断される。
希少癌である神経内分泌癌は、予後が悪く、発生率は増加の一途を辿っているため、病因の詳細な解明が待たれているが、研究材料に乏しいため未だ不明な部分が多い。また、消化器系の神経内分泌がんは NEC と呼ばれ、低分化型で進行が速い特徴をもっている。
高分化型の神経内分泌腫瘍(NET)の進行は遅いが最終的には遠隔転移を来す治療の難しい腫瘍であり、NECとNETをあわせて膵・消化管(GEP)神経内分泌腫瘍(NEN)と総称される。
これらの癌腫は基盤となる研究モデルに乏しく、研究試料として利用可能なヒト GEP-NEN 細胞株はごくわずかであった。
今回、オルガノイドと呼ばれる培養技術により、患者から採取した幹細胞をもとに、3 次元構造を保ったまま大量に全く同じ性質を受け継ぐクローンを増殖させることが可能になり、NET3 株、NEC22 株のオルガノイドモデルを作成し、大規模なライブラリーを構築したとの報告があった。
これにより包括的な分子解析が実施可能となり、全ゲノム解析をはじめとする解析を重ねた。
神経内分泌癌では、消化器組織に発現することが知られる転写因子の発現が正常組織と比較して低下し、通常は心筋にみられるNKX2-5と呼ばれる転写因子などが高頻度に発現していた。
神経内分泌癌は、正常細胞が成長に必要とするWntやEGFと呼ばれる増殖因子がない環境でも成長することがわかった。
また、神経内分泌癌全体で染色体がダイナミックに再編成され、DNAの塩基配列以外の情報(エピゲノム)の変化によって遺伝子発現プログラム異常が起きているなどの特徴も明らかになった。
これらにより、研究材料に乏しかった神経内分泌癌について研究の基盤となる研究リソースを提供し、希少がん研究の促進に貢献するとともに、この疾患のさらなる病態解明や創薬開発につながることが期待される。
本研究の詳細は、科学誌『Cell』のオンライン版に掲載された。