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Columnコラム

胃カメラ検査時に発見される食道癌におけるワクチン療法

現在、食道癌は、早期に発見された場合は内視鏡的切除であるESDにより完治治療となる。

しかし、本邦の食道癌の95%近くを占める扁平上皮癌は、早期から広範囲かつ高頻度にリンパ節に転移するため極めて予後が不良の癌種である。

ステージ1を除く切除可能進行食道癌では、術前に化学療法で全身の微小転移の根絶を図るのが標準治療とされているが、術前化学療法を行ったにもかかわらずリンパ節転移が3個以上残っている半数以上の患者の5年全生存率は20%前後しかないため、術後補助療法による再発予防が求められているが、現在有効な治療法はない。

その状況下において、PD-1の発見により、免疫チェックポイント阻害薬の開発、臨床試験が大きく進歩し、癌細胞の免疫監視機構からの逃避を無力化する免疫チェックポイント阻害薬と相補的な関係にあり、癌を攻撃する免疫細胞であるCTLを増幅せるワクチン療法の確立が急務となっている。

投与された癌抗原ペプチドは、抗原提示細胞表面のヒト白血球抗原(HLA)を介して抗原提示されるが、HLAには様々なタイプがあり、結合性が異なる。

今回、日本人の6割が有しているHLA-A*2402に結合性が高く、また扁平上皮がん細胞に特異的に発現している3種類の新規癌抗原ペプチド(URLC10、CDCA1、KOC1)を用いて試験を行った結果が報告された。

術前化学療法または化学放射線療法施行後に根治切除術が行われ、かつ病理学的検索でリンパ節転移を有していた臨床病期ステージ2・3進行食道癌症例を対象に、HLA-A*2402陽性の患者には癌ペプチドワクチン治療を行い、HLA-A*2402陰性例には再発が確認されるまでは無治療で経過観察を行い比較した。

癌ペプチドワクチン治療は単独で術後2カ月以内に投与を開始し、3種類の癌抗原ペプチドを最初の10回は毎週、次の10回は2週間毎に皮下または皮内に投与し、計20回を治療中の再発の有無にかかわらず投与を完了した。

探索的第2相試験において、有害事象は注射部位の皮膚反応のみで重篤なものはなく、早期再発で通院困難となった3例以外は全例治療を完遂できた。

本試験の主要評価項目である無再発生存期間はワクチン群で良好な傾向にとどまったが、食道癌特異的生存期間では5年生存率が対照群の32.4%に対し、ワクチン群は60.0%であり、ハザード比は0.554、p=0.045と有意に予後を延長することが示唆された。

3種類の癌抗原ペプチドのペプチド特異的CTLの誘導能をみると、CTLを誘導した癌抗原ペプチドの個数が増えると再発が抑制され、2種類以上の癌抗原ペプチドでCTLの誘導が確認された症例の食道癌特異的生存期間は明らかに延長していた。

さらに、腫瘍の微小環境は、切除標本における免疫染色で、腫瘍内へのCTLの浸潤の有無とCTLへ抑制性シグナルを伝える癌細胞表面のPD-L1の発現の有無で評価した結果、ワクチン群の約6割に相当するCTL(-)/PD-L1(-)の腫瘍をもつ症例においては、食道癌特異的5年生存率は対照群の17.7%に対し、ワクチン群は68.0%と50%近い生存率の改善を認め、ハザード比は0.31、p<0.010と著明な効果が得られた。

一方、少数において、CTL(-)/PD-L1(+)の腫瘍をもつ症例ではワクチン投与の効果は全く認められず、ワクチンにより誘導されたCTLの効果がPD-L1を介した抑制性シグナルで打ち消されたと考えられた。

上記の結果は、誘導されたCTLは予後改善に寄与しており、またPD-L1発現例では免疫チェックポイント阻害薬との併用が有効である可能性を示唆し、癌ペプチドワクチン治療の有効性と共に今後の免疫療法の個別化に向けて新たな発展性を示すと期待される。

本研究成果は、Annals of Surgeryにオンライン掲載された。