幼少時のヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)感染が、萎縮性胃炎を惹起し、やがて胃癌の発生母地となる。

そのため、ピロリ菌陽性者には抗生物質による除菌が推奨され、陰性化により胃癌の発生リスクが低下する。

T細胞活性化には、樹状細胞活性化が必要であり、ピロリ菌は樹状細胞を活性化させる自然免疫受容体(TLR)のリガンドの形を巧妙に変化させて、この受容体から逃れる能力を持っていることが分かっている。

今回、ピロリ菌が持つ樹状細胞を活性化する物質を生化学的に分離、精製することに成功したと発表がなされた。

単離された活性化物質は、ピロリ菌が宿主のコレステロールを改変して産生するピロリ菌特有の糖脂質、α-コレステリルグルコシド(α-cholesterylglucoside, αCAG)であり、宿主の免疫受容体Mincleに認識されて免疫系を活性化することも明らかにされた。

さらにMincleを欠損するマウスにピロリ菌を感染させると、抗原特異的T細胞活性化及び胃炎が抑制されることが判明した。

この胃炎抑制効果は、野生型マウスに抗Mincle抗体を投与することでも観察され、Mincleの阻害が治療に繋がることも示唆された。

また、αCAGと構造が類似するピロリ菌糖脂質、α-コレステリルホスファチジルグルコシド(α-cholesteryl phosphatidylglucosides, αCPG)が、Mincleと同じファミリーに属する免疫受容体DCARに認識され、免疫系を活性化することが判明した。αCAGとαCPGの両方を合成できないコレステリルグルコシルトランスフェラーゼ欠損ピロリ菌を感染させたマウスにおける胃炎の軽減が確認され、これらの糖脂質が胃炎を引き起こす原因物質であることが明らかになった。

すなわち、ピロリ菌が宿主のコレステロールを取り込み、菌体内でαCAGとαCPGといった炎症誘導化合物に変換することで胃炎を引き起こすことが明らかになった。

今後、宿主側でこれらの受容体の働きをブロックすることにより、またピロリ菌における糖脂質の生成に必要な酵素(コレステリルグルコシルトランスフェラーゼ)を阻害することにより、従来の抗生物質による除菌療法に代わる新たな除菌療法および胃炎治療法として期待される。

本研究成果は、米国科学誌「Journal of Experimental Medicine」に公開された。