ヒト一人の細胞数が約37兆個であり、一人あたりの腸内細菌数はおよそ40兆個、重さにして約1~1.5 kgである。

これらの腸内細菌叢の乱れが炎症性腸疾患などさまざまな疾患と関係することが、最近になって明らかになってきた。また腸内細菌のバランスが、胃切除を含むさまざまな治療により変化する可能性があり、欧米における肥満治療のための胃切除手術では、術後の体重減少が腸内細菌叢の変化と関連することが報告されている。

しかし、胃切除術後には、低栄養や貧血、ダンピング症候群などの併発症があり、また胃癌症例では、腸内細菌との関連が指摘されている異時性大腸がんを術後に発症するリスクが高いことが明らかになっている。

今回、国立がん研究センターにおいて大腸内視鏡検査を受けた症例中、胃切除症例50人と健常者56人を対象として、食事などの「生活習慣などに関するアンケート」調査、凍結便、大腸内視鏡検査所見などの臨床情報が収集された。

この凍結便に対して、メタゲノム解析とメタボローム解析を行い、胃切除した症例50人と健常者56人の腸内細菌叢を比較し胃切除後症例に特徴的な細菌や代謝物質を探索した結果、胃癌切除術と、それに伴う消化管再建が、腸内環境に大きな影響を与えることが明らかになった。

その変化の1つとして、胃切除後の患者では、口腔内でよく検出される細菌の相対的な量が多いことが確認された。

胃切除症例は、ビタミンB12が小腸で吸収されずに大腸まで残り、ビタミンB12の摂取能力を持つ細菌が増加する腸内細菌の代謝機能の変化が見られた。

また、胃癌症例では、異時性大腸癌を発症するリスクが高いことも報告されているが、散発性大腸癌に関連する細菌の種類や代謝物質が胃切除後に多いことが観察された。

これらにより、便検体を用いて腸内環境を評価することにより、胃切除後の併発症の要因を理解し個々人の腸内環境を評価することで、胃切除後の併発症の予防や治療に貢献する医薬品などを生み出す可能性が示唆されると期待される。

本研究成果は英国学会誌「Gut」に掲載された。