腸管粘膜にはマクロファージ(Mph)や樹状細胞など多くの自然免疫細胞が存在している。

これらの免疫細胞は腸管における免疫応答や蠕動運動といった生理的機能の恒常性を維持するうえで重要な役割を果たしているが、異常な活性化により炎症性腸疾患発症要因が惹起される。

Mphは腸管粘膜固有層に最も多く存在する貪食細胞であり,炎症型(M1)と炎症抑制型(M2)に大別され,炎症病態の形成にはM1型のMphが関与すると考えられている。

M2型Mphの分化誘導は炎症性腸疾患の抑制に奏功する可能性が示唆されている。

また、必須微量元素である亜鉛は生体の免疫応答に深く関与しており、様々な炎症病態モデルにおいて亜鉛の重要性が示唆されている。

炎症性腸疾患の罹患者、特にCrohn病患者の血中亜鉛濃度は健常者に比べ低値を示すため、Mph分化機構と亜鉛欠乏が腸管炎症に及ぼす病態生理的作用に関与していることが明らかにされた。

亜鉛キレーターであるTPENの腹腔内投与により亜鉛欠乏マウスを作製し、この亜鉛欠乏マウスにおいて炎症性腸疾患の実験モデルであるトリニトロベンゼンスルホン酸誘発性大腸炎モデルを作製した結果、亜鉛欠乏に伴い大腸炎が著明に増悪することが明らかになった。

フローサイトメーターを用いた免疫学的手法により、その作用機序を解析した結果、大腸粘膜固有層において炎症型であるM1型Mphの増加ならびに17型ヘルパーT(Th17)細胞が活性化することが判明し、また、Th17細胞の活性化には、M1型Mphから分泌されるインターロイキン-23(IL-23)が関与することが明らかになった。

また、マウス骨髄由来単球より分化誘導したマウス骨髄由来マクロファージ(BMDM)を用いて、MphにおけるIL-23発現と亜鉛欠乏との関係を調査した結果、亜鉛キレーターであるTPENの添加により細胞内亜鉛欠乏を呈したBMDMでは、IL-23を構成するサブユニットであるIL-23p19の発現が有意に亢進することが分かった。

さらに、亜鉛欠乏に伴うIL-23p19の発現亢進には、インターフェロン応答型転写因子であるIRF5の核内移行ならびにIL-23p19プロモーター上へのリクルートの促進が関与することも明らかにされた。

これらにより、亜鉛を用いた炎症性腸疾患治療の再考に役立つだけでなく、その他多くの自己免疫疾患に対する治療戦略構築に対して有用な情報となることが期待される。

本研究成果は、科学雑誌『Journal of Crohn’s and Colitis』に掲載された。